水中での極性相互作用、特に多点水素結合、は生命の維持にとって不可欠である。この基本問題に対し、平成17年度は以下の取り組みを行い、下記の成果をえた。 1.新しい遺伝子運搬剤の開発:脂質を束ねた構造を有する大環状のオクタアンミが従来例のないコンパクトな遺伝子/siRNAの運搬体になりえることを確認した。 2.プロテオグリカンミミックを用いるタンパク質の基盤固定化と安定化:プロテオグリカンを模した大環状プロテオグリカン模倣体(ミミック)を合成し、これが疎水性の基盤に効率よく固定化され、細胞の接着を強く阻害するとともに抗血栓性を示すことを明らかにした。 3.グリコクラスターによるリン酸イオンの捕捉と薬物運搬系への応用:ゾレドロネートと呼ばれるビスリン酸化合物はアポトーシスを誘起し、乳癌や骨そそう症の治療薬として使われる。このものは糖クラスター化合物と強く錯化し、サイズ許容のエンドサイトーシスにより効率よく細胞に取り込まれることを見出した。 4.表面をセラミック(シリカ)被覆したリボソームの遺伝子運搬:リボソーム(脂質の2分子膜集合体)は核酸(DNAやRNA)のキャリアとして用いようとすると融合(fusion)する。これは相互作用により局所的な溶媒和(水和)構造が乱れるためと考えられている。このような水和構造の乱れを避ける方策として表面をセラミック(シリカ)被覆で強化したリポソーム(セラソーム)を用いることを検討した。この予想は的中し、セラソームはDNA(プラスミドDNA)やsiRNAとの相互作用において融合せず、従って元のウイルスサイズ(60-70nm)を維持した優れたキャリアであることが判明した。
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