研究計画書に記載の実験計画に従い、以下の研究を行った。 我々は、Lグループに属する視物質について、結合したCl^-が波長制御以外の分子特性にも影響を及ぼしているかを検討するため、培養細胞系で発現に成功したサル緑視物質を実験材料として研究を続けている。本年度はCl^-結合に関与する残基(His197)を他の19種のアミノ酸残基に置換し、それらの分子特性を比較検討することを試みた。 19種のアミノ酸にそれぞれ置換した変異体の蛋白質部分をHEK293T培養細胞系で一過的に発現させたところ、そのうち13種の蛋白質が発色団と結合して色素蛋白質を生成した。次に、色素蛋白質を形成したそれぞれの変異体を実験材料として、その吸収極大、および、光照射により生成するメタI中間体の吸収極大と崩壊の時定数を測定した。その結果、変異体はそれらの分光学的な性質の違いによって3つのグループに分けられることがわかった。グループ1は野性型と同様の分光学的な性質を示し、吸収極大およびメタIの崩壊の時定数に対してCl^-結合の効果を示す。グループ2はCl^-結合の効果を示さない。グループ3はCl^-が結合していなくてもメタIの崩壊の寿命が非常に速くなった。 野性型を含むグループ1の変異体ではCl^-の結合によってメタI中間体の寿命が変化する。したがって、メタIの状態でもCl^-は蛋白質部分に結合していることが明らかになった。またグループ3に分類される蛋白質は、191番目のヒスチジンをβ-構造を作る傾向にあるアミノ酸を置換したものである。これらの置換によりメタIの崩壊が非常に速くなることから、メタIの崩壊に伴ってCl^-結合サイト付近がβ-構造を取りやすい構造に変化することが推定された。
|