研究概要 |
平成16年度は「低振動数ラマン散乱による水分子のダイナミックス」について検討を行った。「疎水性相互作用」を有するモデル高分子としてN-isopropylacrylamide gel(or polymer)を用いて,高分子の相転移に伴う水の動的構造について検討を行った。具体的には疎水性水和,すなわち(1)疎水基周囲の水の構造(2)疎水性水和水の寿命について検討を行い,以下の結果を得た。 1.高分子存在下での検討に先立ち,塩水溶液(NaCl,KCl,CsCl)中での水の動的構造を低振動数ラマン散乱により検討を行い,その解析方法を確立した.ラマンスペクトルは1つの緩和モードと,2つの減衰振動により解析を行い,我々は緩和モードとして,Shibataらにより導出されたランダム周波数変調モデルに基づく緩和関数を用いた。ランダム周波数変調モデルは回転ブラウン運動の角速度が2状態遷移模型の重ね合わせ(Multiple Random Telegraph, MRT)で表される確率過程によって変調を受けるというものである。その結果,MRTモデルではイオンの水の構造形成,構造破壊効果が定性的に変調の相関を表すパラメータにあらわれることが明らかとなった。 2.N-isopropylacrylamide gel(polymer)の体積相転移(coil-globule転移)は添加塩種,および濃度に強く影響を受け,高分子中の疎水基周囲の水の脱水和によるものであることが,熱分析および塩水溶液の活動度の測定から推定することができた。 3.低振動数ラマン散乱から,N-isopropylacrylamide gel(polymer)の体積相転移(coil-globule転移)による収縮は,N-isopropylacrylamide近傍の水分子が形成する水素結合ネットワークがイオンにより破壊されることにより引き起こされることが明らかとなった。
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