主に二点について研究を行った。第一のトピックは、アクチン分子間に働く排除体積起因の平均力の計算であり、第二のトピックは、2状態モデルを用いた球状蛋白質の熱容量の計算である。第一のトピックは、蛋白質の会合に関連している。アクチンは高塩濃度の溶液中で、会合によりフィラメントを自発的に形成する。近接したアクチン2分子間に働く高分子込み合い効果起因の平均力を、5種類の2分子相対配置について、溶液理論の一つである拡張scaled particle theory(XSPT)を用いて計算した。その結果、溶液中のダイマーがとる2分子相対配置が最も安定となった。また、高濃度では安定化される2分子の相対配置が低濃度と異なる結果になった。高分子込み合い効果により、排除体積が比較的大きな相対配置におけるアクチン2分子が強く安定化された。これは高濃度では排除体積の大小のみで高分子込み合い効果を議論できないことを示している。フィラメントでの軸に沿った配置での2分子の形状には窪んだ部分があり、高濃度ではパッキングを高くする必要があるため、窪んだ部分に遊離している高分子を取り込む形で安定化したと推測される。 第二のトピックは、蛋白質の水和と関係している。熱変性での天然状態から変性状態への熱容量変化、ΔCp、では水和の寄与が支配的であると言われている。球状蛋白質BPTIの熱容量への水和の寄与を計算するため、第一のトピックでも用いたXSPTを用いて計算した。計算の結果、天然状態では水和に起因する熱容量には温度依存性がほとんどなかった。非天然構造を延びた構造としてモデル化した。計算されたΔCpは実験値と比べ大きな値になったが、温度上昇に伴って小さくなるという実験で得られている傾向は再現できた。また、水和エントロピーの計算値は、外挿すると摂氏120度付近で蛋白質の立体構造によらず同じ値をとった。これは、熱測定で知られている知見と一致する。
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