生体内の酵素反応の中で加水分解反応は古くからその反応機構の解明が試みられてきたが、今もって正確に理解されているとは言い難い。本研究では、低温トラップX線結晶構造解析法を駆使して、Mg^<2+>(Mn^<2+>)存在下8-oxo-dGTPを8-oxo-dGMPに分解する大腸菌MutT(分子量15000)の加水分解反応機構の解明を目的とする。 1.我々はMutTのアポ型とポロ型、生成物結合型などについてX線結晶構造解析を終え、MutTの8-オキソグアニン塩基への高い親和性発現機構を解明しており、残る課題は加水分解反応機構である。本年度は、本研究の基本となるMutTと基質である8-oxo-dGTPの複合体の結晶化に取組み、良好な結晶を得ることに成功、1.8A分解能の構造を得た。 2.MutT-8-oxo-dGTP複合体結晶をさまざまな条件下MnCl_2溶液中にSoakingし、N2ガスで瞬間凍結し、その状態の構造解析を行った。現在のところ2mMMnCl_2溶液に36時間Soakingすると1個のMn^<2+>がMutTと8-oxo-dGTPに配位するが反応は起こらず、5mM溶液に36時間もしくは20mM溶液に4時間Soakingすると結晶中で完全に加水分解するという結果を得た。 3.大腸菌MutTと同様の酵素はヒトにも存在する。ヒト由来のMutTホモログ(hMTH1)はMutTと異なり幅広い基質特異性をもち、加水分解に関わるアミノ酸残基が異なることが示唆されている。我々は差異を明らかにするために、hMTH1と8-oxo-dGTP並びに8-oxo-dGMPとの複合体の結晶化を行い、hMTH1-8-oxo-dGMP複合体構造を1.95A分解能で解析した。hMTH1-8-oxo-dGTP複合体は現在精密化中で、この結晶についてもMg^<2+>(Mn^<2+>)をSoakingし、MutT同様の方法で加水分解反応機構を解明したい。
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