蛋白質のフォールディング・ファネルにおける相互作用の階層性を理解するため、フォールディングの過程に現れる中間体の構造を解析し、その安定化に寄与する相互作用の規模や性質を明らかにすることを目的として以下の研究を進めた。実験対象として、複雑なエネルギー地形をもつがゆえに多様な中間構造状態を示すウマβラクトグロブリン(ELG)と、同じリポカリン・ファミリーに属するがアミノ酸配列がβラクトグロブリンとはかなり異なるヒト涙リポカリン(TL)を用いた。 1.CDスペクトルから判断すると、ELGは低温変性状態において天然構造には存在しないαヘリックス構造を形成している。しかしながら、X線小角散乱や超遠心実験からは分子は鎖状で広がった構造をとっていることが明らかとなった。酸性pHで観測される、いわゆるモルテン・グロビュール状態も温度低下に伴い低温変性状態へと転移するので、遠隔残基間の疎水相互作用により安定化されている構造が、温度低下に伴って疎水相互作用が弱くなると崩壊し、一次配列上の局所的な相互作用により安定化されているαヘリックスへと変化すると考えられる。モルテン・グロビュール状態、低温変性状態における構造の詳細を知るために、両状態におけるアミドプロトンの水素・重水素交換反応速度の測定と部位特異的プロリン変異実験を行った。 2.TLの遊離Cys101をAlaに置換した変異体C101AとすべてのCysをAlaに置換したall-Aの尿素変性をCDで観測した。両蛋白質ともに二状態転移を示し、両者の変性自由エネルギーの差からS-S結合の構造安定性への寄与が見積もられた。
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