研究概要 |
ウマβラクトグロブリン(ELG)と、同じリポカリン・ファミリーに属するヒト涙リポカリン(TL)を材料として中間状態の構造を解析した。 1.ELCは酸性pHでモルテン・グロビュール(MG)状態をとる。酸性pHでのCDスペクトルの塩濃度依存性を調べたところ、大きな塩濃度依存は観測されなかった。しかし、ELGは分子内に2つのジスルフィド(S-S)結合を有するので、この存在が分子の拡張を妨げている可能性が考えられた。そこでCysをAlaに置換してS-S結合を1つ無くした変異体を作製し、酸性pHでの塩濃度依存性を調べた。その結果、塩濃度の低下に伴うヘリックス含量の増加が観測され、MG構造の安定化に関する疎水相互作用の役割の重要性が確認された。 2.ELGのMG状態と低温変性状態の二次構造の差異を一連のプロリン置換変異体作製とアミドプロトンの水素・重水素交換によって調べた。その結果、MG状態と低温変性状態のいずれにおいても水素交換から保護されているアミドプロトンは天然構造においてF,G,Hストランドを形成する領域とヘリックスを形成する領域に存在した。一方、アミノ酸残基をプロリンに置換してCDスペクトルがヘリックスの減少を示した領域は、MG状態ではHストランドとヘリックスを形成する領域であったのに対して、低温変性状態ではF,G,Hストランドとヘリックスを形成する領域であった。 3.TLの尿素変性状態からのフォールディング反応をCDストップト・フロー法により観測した。その結果、ELGと同様に不感時間内にCDスペクトルの変化を示すが、そのスペクトルはELGのように非天然ヘリックス構造の形成を示すものではなかった。TLのアミノ酸配列はELGのように高いヘリックス形成傾向を示さないため、フォールディング初期に形成される中間体の二次構造はアミノ酸配列の二次構造形成傾向を強く反映したものであると考えられた。
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