研究概要 |
タンパク質の立体構造は、サブユニット、ドメイン、二次構造などの階層性を持っている。小さなタンパク質の構成要素として各二次構造要素に注目し、水中におけるそれらの振舞いを調べることによって、タンパク質の折れ畳みについての知見が得られると考えられる。そこで、水中のペプチドの分子シミュレーションを行い、結果を解析した。 具体的には、プロテインGのB1ドメインのC末端側のβヘアピンに相当する16残基のペプチド(G-peptide)の、アンフォールド構造を初期構造とした水中の拡張アンサンブルシミュレーション(マルチカノニカルレプリカ交換分子動力学法)を行った。以前の研究から、ペプチドの二次構造傾向性は使用するエネルギー関数(力場)に依存することが分かっている。ここでは、タンパク質研究で多く利用されている力場のうち、AMBER96,GROMOS96,OPLS-AA/Lの3つの力場を使用した。実行したシミュレーションの長さは、合計120〜240ナノ秒である。G-peptideの折れ畳み時間は6マイクロ秒であることが実験的に知られているので、このシミュレーション時間は、実際の折れ畳み時間の25〜50分の1に相当する。拡張アンサンブル法の活用によって、このような短い時間でG-peptideの折れ畳みを観察することが初めて可能となった。また、このシミュレーションの初期条件は、既知の天然構造の情報は一切含まない。 3つのシミュレーションのうち、中程度のβ構造傾向性を持つGROMOS96力場を用いたときに、最も安定に天然のβヘアピンが形成された。 結果の解析から、G-peptideの折れ畳みについて、以下の知見が得られた。 (1)芳香族側鎖の接触が早い時点で起こる。 (2)βシートの長さは、ターン部位に近い2〜3対のブリッジからなるものが比較的安定である。これは、NMRなどの実験結果と矛盾が無い。
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