研究概要 |
メトミオグロビンモデルへのアニオンの配位と水の再配向:Fe(III)TPPS (TPPS : meso-tetrakis-(4-sulfonatophenyl)porphyrin)はheptakis(2,3,6-tri-O-methyl)-β-cyclodextrin (TMe-β-CD)により包接され、極めて安定なtrans-type 1:2錯体を形成する。この錯形成に対する熱力学的パラメータをミクロカロリメータを用いて測定したところ、pH4のコハク酸緩衝溶液中でK_<11>,ΔH_<11>,ΔS_<11>およびK_<12>,ΔH_<12>,ΔS_<12>はそれぞれ、1.26x10^6M^<-1>,-48.7kJ/mol,-46.6J/(mol K)および0.63x10^5M^<-1>,-11.7kJ/mol,52.6J/(mol K)であった。1つ目のTMe-β-CDの包接は大きなエンタルピー変化によって推進され、大きなvan der Waals相互作用がホスト-ゲスト間に働くことが分かる。一方、2つ目のTMe-β-CDの包接は、相対的に負に小さなΔHと正に大きなΔSを伴い、エントロピー支配の錯形成である。つまり、2つ目のTMe-β-CDの包接時には、1:1錯体と2つ目のTMe-β-CDからの脱水和が錯形成を推進していることが明らかになった。この系に0.05M NaClが共存すると熱力学的パラメータは1.15x10^6 M^<-1>,-48.6kJ/mol,-47.7J/(mol K)および5.70x10^5 M^<-1>,-14.0kJ/mol,63.2J/(mol K)となった。特徴的なことは1:1錯体生成についてはNaClの存在の有無に関わらずその熱力学的パラメータは両系で同じであるが、第2段階目の包接は、NaClが存在すると進行しやすくなり、特にエントロピー項的に有利になった。NaCl存在下では第2段階目でCl^-のFe(III)への配位が進行し、ポルフィリン中心の電荷を中和すると同時にCl^-からの脱水和を伴い、1:2錯体の形成が促進されるものと結論できる。本研究ではこれ以外に、Fe(III)TPPS-TMe-β-CD錯体へのアニオンの配位に著しいアニオン選択性があり、アニオンの配位に対するΔSはアニオンの親水性を表すパラメータであるHofmeister系列の順に大きくなり、アニオンからの脱水和がアニオンの配位に重要な要因の1つであることが示唆されたが、勿論これだけではなく、アニオンの立体的な構造および塩基性も関与することが考えられる。
|