研究概要 |
種々の成長因子やTCR刺激はPI3Kを活性化させる。PI3KはPIP2をPIP3に変換し、PIP3はAktを活性化させることによって細胞増殖、アポトーシス抵抗性、細胞遊走能亢進に働く。PTENはPIP3を主な基質とするホスファターゼでこの経路を負に制御する癌抑制遺伝子である。 我々はPTENの生体における機能を解析するために、これまでにT細胞特異的PTEN変異マウスを作成したところ、マウスは自己免疫病を呈し、また全例T細胞リンパ腫を呈することを報告した(Immunity,2001)。そこで平成16年度は、これらの発現形がどのアイソタイプのPI3Kによるのかを検討するためにPTEN/PI3Kδ、PTEN/PI3Kγのダブル変異マウスを作成したところ、PTEN/PI3Kγダブル変異マウスでは、自己抗体産生の完全な抑制と、リンパ腫発症の大幅延長を認めた。さらに、PTEN/PI3Kδダブル変異マウスでも、軽度の自己抗体の産生抑制と、リンパ腫発症の軽度延長を認めた。このように、T細胞においては主にPI3Kγのアイソタイプがその重要な機能を担い、その機能亢進が自己免疫病とリンパ腫発症を引き起こすことをはじめて明らかにした(投稿準備中)。 さらに我々はT細胞特異的PTEN欠損マウスでは、NKT細胞においても高率にPTEN遺伝子を欠損することから、このマウスにおけるNKT細胞を解析した。このマウスは成熟NKT細胞が著しく減少し、未熟なNKT細胞が増加していた。またNKT細胞の増殖能やサイトカイン産生などの機能障害も認められた。これらのNKT細胞数の減少としては、抑制性NKT細胞受容体であるLy49の発現がその一因であることが類推された。このように癌免疫監視機構の障害が、PTEN変異にみられる高率な発癌の一因となりうることを提唱した(投稿準備中)。
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