通常、細胞表面に分布する膜タンパク質はリボソームで合成が開始されると小胞体に取り込まれ、ゴルジ体等の膜輸送系を経て細胞膜へ局在するようになる。この仕組みは、全ての分子機構が明らかになっているわけではないが、広く受け入れられている。研究代表者は、ある種の膜タンパク質が薬剤処理により小胞体からゴルジ体への輸送を阻害した条件下でも細胞膜に輸送されることを見いだし、アミロイド前駆体タンパク質(APP)をモデルに、このノンクラシカル輸送経路の解析を行った。その結果、アダプタータンパク質X11Lを強制発現させた時にAPPはゴルジ体を通過しないで細胞膜上に輸送された。この過程を生細胞の全反射顕微鏡観察および細胞の抗体染色で解析したところ、膜小胞がゴルジ体を介さず直接APPを細胞膜に輸送していた。ゴルジ体非通過は細胞膜上のAPPがO-型糖鎖を受けていないことから生化学的に実証した。X11Lのファミリー分子であるX11およびX11L2も同様の活性を示した。X11ファミリーは、相同性に乏しいN-末端、中央部のPIドメイン、C-末端の2つのPDZドメインからなるが、PIドメイン変異体はこの活性を失った。また、輸送に関係する分子を探索した結果、小胞体の発芽に関わる低分子量G-タンパク質ARFがX11Lと相互作用することを明らかにして、現在、ここを糸口にゴルジ体を介さない膜タンパク質輸送系の実態の解明を進めている。
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