中枢神経軸索が損傷されると再生しない原因として、これまでミエリンに局在する複数の軸索再生阻害蛋白が同定され、その分子メカニズムが明らかになってきた。しかしながらなぜ再生阻害機構が生体に存在しているかについては不明である。本研究では、軸索再生阻害蛋白の新たな機能について解明した。再生阻害蛋白であるmyelin-associated glycoprotein(MAG)は、脊髄損傷後にオリゴデンドロサイトから遊離し、神経細胞体中に取り込まれた。In vitroの系で、リガンドであるMAGにより小脳顆粒細胞上のp75受容体が脂質ラフトに移動し、リガンドー受容体複合体となって細胞内にとり込まれた。MAG投与により神経細胞内でRap1、MEK、ERKが活性化された。これらの活性化は脂質ラフトを破壊する薬剤によって解除されたため、脂質ラフト依存性であると示唆される。さらにMAG-p75受容体複合体は、取り込まれた細胞内において活性化Rap1と結合し、軸索内部を細胞体に向かって移動した。MEKの活性化を阻害することにより、神経細胞死が惹起された。これらの事実より、MAGはRap1-MEK-ERKを活性化し、それらのシグナルがp75受容体とともに軸索から細胞体に運搬されることにより、神経細胞の生存を促していることが示唆された。今後の研究の展開により、「軸索再生阻害は神経細胞の生き残り戦略である」という古くからある仮説を検証していきたい。
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