研究概要 |
膜小胞を介するオルガネラ間の物質輸送では,最終的に,膜小胞が目的のオルガネラと融合することによって,積荷が受け渡される.脂質二重膜の融合は,小胞膜と標的膜とが可逆的に「ゆるく」繋ぎ留められる「繋留」と呼ばれる段階を経た後,小胞膜上のSNAREタンパク質と,それと対になる標的膜上のSNAREタンパク質が,特異的な複合体を形成し,膜と膜とが近づけられることによって不可逆的に進行すると考えられている.本研究課題では,開口放出で働く繋留因子であるexocyst複合体と液胞の融合で働くHOPS複合体に注目し,繋留の物理的機構と,RabやRho/Racなどのsmall GTPaseの結合によるGTP依存的な繋留の制御機構を解明することを目的として,X線結晶構造解析および低温電子顕微鏡によるexocyst複合体,HOPS複合体,および,それらと相互作用するsmall GTPase群の立体構造決定を計画した.現在までのところ,昆虫細胞Sf9とバキュロウイルスの発現系をもちいて,exocyst複合体の二つのサブユニットを含む複合体の大量発現に成功しており,精製条件の検討を行っている.量,質ともに,結晶化に適する試料が調製できることを期待している.並行して,GTP結合型Ralをbaitとして,ヒト血小板からのexocyst複合体の精製を小スケールで行った.今後,精製スケールを上げて,低温電子顕微鏡による解析が可能な量の調製を行う.また,酵母のSec6/8複合体の制御因子であるSec4と,そのGTP-GDP交換因子(GEF)であるSec2について,Sec2のGEFドメインおよびSec4・Sec2 GEFドメイン複合体の予備的な結晶化に成功している,特にSec2の結晶については,回折測定に十分な大きさの結晶を得ており,今年度中に構造を決定できると考えている.
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