アルツハイマー病では、アミロイドAbetaの老人斑への沈着が、病初期から確認されており、Abetaの過剰な生成あるいはクリアランスの低下による神経細胞の機能障害が病態に関与すると考えられている。Abetaは、アミロイド前駆体蛋白APPよりβセクレターゼおよびγセクレターゼにより切り出されて産生されるが、Abetaの細胞内における産生部位は同定されていない。本研究課題では、研究費の交付を申請している2年間に、Fluorescence Resonance Energy Transfer(FRET)を利用してAPP輸送とAbeta産生を可視化する応用の広い系を確立し、APPからAbetaが生成される過程を分子レベルで明らかしたい。 そのための第一段階として本年度は、APPからAbetaを切り出すときのセクレターゼであるBACEの動態をFRETを用いて検証した。FRETが存在すれば、ある分子(栄光物質A)とある分子(蛍光物質B)は相互作用できる程の近距離に位置するということが言える。今回は、このメカニズムを利用して、BACEとAPPのendocytic receptorであるLRPとの間の相互作用を検討するため、それぞれ2種類の蛍光物質でBACEとLRPをラベルして、これらが膜上で相互作用をしていることを明らかにした。さらに、FRETを指標にすると、このBACE-LRP間の相互作用がcholesterol depletionで減弱し、相互作用が膜上のraftで起こっている可能性を強く示唆した。 これにより、APPのendocytic receptorであるLRPがAPPのみならず、そのセクレターゼであるBACEとも膜上で会合し、endocytosisすることにより、セクレターゼと基質を近づけるscaffoldのような作用をしていることが推定された。 今後はこれをさらに進めて、APPからAbetaが産生される場所を特定し、さらに、APPやセクレターゼの輸送をmanipulateし、FRETの変化をきたすようなパラーメーターを動かしたとき(例えば、raftにBACEやPS1をtargetするなど)、実際にAbetaの産生量が変化するかを超高感度ELISAにて検証する。
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