上皮癌細胞の運動性および浸潤性の獲得過程において、接着分子であるE-カドヘリンの不活性化、すなわち細胞間接着部位からの消失が有意に認められる。近年、プロモーターのメチル化やsnailなどの転写抑制因子を介した蛋白発現量の調節だけでなく、膜小胞輸送による細胞内局在性の制御もE-カドヘリンの活性制御に重要である事が明らかとなっている。申請者はE-カドヘリンの細胞内輸送を制御する低分子量G蛋白質であるArf6の活性制御機構に着目し、正常マウス乳腺上皮(NMuMG)細胞において、細胞密度がArf6の活性と逆の相関を示す事を昨年度明らかにした。 本年度、Arf6を介したカドヘリン活性の制御に関与する上流因子の同定を目的として、上皮細胞において細胞-細胞間接触により活性化され、細胞の運動や増殖の抑制に関与する事が知られるEphA2受容体に着目し、NMuMG細胞およびMDCK細胞においてArf6の活性がEphA2受容体の活性化によりどのような影響を受けるかGGA pull down法により検討した。その結果、EphA2受容体のリガンドであるEphrinA1の刺激によりArf6活性の顕著な減少が認められた。また同時にE-カドヘリンの細胞間接着部位への集積も観察された。以上の結果はEphA2受容体がArf6の不活性化を介してE-カドヘリンの局在の制御に深く関与する事を示しており、さらに、EphA2受容体により活性化されるArf特異的GTPase-activating protein (ArfGAP)の存在を示唆している。そこで現在EphA2受容体と相互作用するArfGAPが存在するか否か検討中である。
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