研究概要 |
本研究は、ほ乳類の恒常的な精子形成を支えるメカニズムを細胞レベル明らかにすることを目的として行われた。研究代表者は、マウス精子形成のタネとなる幹細胞を含むことが明らかにされている最も少数の細胞集団、「未分化型精原細胞」に特異的に発現する遺伝子、ngn3(neurogenin3)を同定しており、本研究ではこの遺伝子を利用して以下の実験を行った。 1.ngn3遺伝子の発現制御領域を用いて未分化型精原細胞を蛍光タンパク質GFPでラベルしたトランスジェニックマウスを樹立した。1,2,4,8,16個という、2のn乗個の細胞が細胞間橋で連結するのが観察された。これは、固定標本の観察から提唱されていた未分化型精原細胞の特徴に一致するもので、生きた組織で初めて可視化されたものである。 2.GFPラベル精原細胞を、生きた精巣中で連続観察する実験系を開発し、長時間(数日間)の連続観察を可能にした。その結果、未分化型精原細胞の、精巣の構造に依存した周期的な挙動が初めて明らかになった。 3.生後最初の精子形成(first wave spermatogenesis)では、ngn3の発現を伴わない特別な分化プログラムによって精子が作られることを明らかにした。この精子は正常な受精能を有しており、精子への分化には幹細胞のステップを経る必要がないことが示唆された。 本研究は、生物学的には重要でありながらほとんど謎に包まれていた精子形成幹細胞システムを担う未分化型細胞を、具体的に目に見える形で同定しその挙動を観察することができた点で意義深い。
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