分化多能性は受精卵、エピブラスト、始原生殖細胞において維持され、生殖細胞を経て次世代へと伝えられる。早期胚に由来するES細胞もまた分化多能性を維持している。これまでES細胞は恒常活性型のRas蛋白質であるERas (ECAT5)を特異的に発現していることや、ECAT4は分化多能性の維持に必須であるホメオボックス転写因子Nanogをコードすることを報告した。一方、ECAT8はTudorドメインを有する蛋白質をコードしており、やはりES細胞に加えて精巣でも発現が認められる。本研究の目的はNanogの生殖細胞形成における役割をコンディショナルノックアウトマウスにより解析すること、およびECAT8が精子形成において果たす役割を明らかにすることである。 1.NanogとECAT8の生殖細胞における発現様式の解析 NanogやECAT8遺伝子座にβガラクトシダーゼがノックインされたマウスを用いて解析した結果、Nanogは始原生殖細胞の一部で、ECAT8は精母細胞において発現していることがわかった。 2.Nanog遺伝子のコンディショナルノックアウトマウス Nanogのホメオドメインをコードする第2エキソンを2つのloxP配列で囲んだマウスを作製した。現在、FRT配列で挟んだ薬剤耐性遺伝子をFlpにより除去している。 3.ECAT8ノックアウトマウスの解析 ECAT8ノックアウトマウスのオスにおいては、減数分裂の異常により精母細胞が細胞死をきたし、不妊となることがわかった。 4.ECAT8結合RNAの同定 ECAT8はTudorドメインを有することからRNA結合蛋白質である可能性が高い。しかし現在のところ結合RNAの同定には至っていない。
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