「生殖腺の性分化過程における減数分裂移行の性差」は、少なくとも脊椎動物で保存された現象であるが、未だ「減数分裂への移行の性差の分子機構」は、ほ乳類を含めて解明されていない。昨年度に「生殖細胞の性分化」機構を明らかにするために、魚類で生殖腺の性分化に関する研究がもっとも進んでいて、かつ、遺伝的性が明らかなティラピアを用いて「減数分裂移行の性差」を試験管内で再現する培養系を確立した。この試験管内生殖腺性分化再現系はin vivoとほぼ同様な時間軸で生殖細胞の雌雄分化を再現する。すなわち、雌生殖腺では減数分裂期へと移行するが、雄生殖腺では原細胞期に停止する。この実験系を用いて、雌雄生殖細胞分化の性差と対応して発現が増減する遺伝子産物を検索した結果、雌生殖腺で発現が増加するものを11個(FR)、雄生殖腺で発現が増加するもの(MR)を4個、得た。この中で、FR-11、MR-2は、分泌性因子の特徴をもつ。まず、FR-11のリコンビナントタンパクをCHO細胞を用いて作製し、試験管内生殖腺性分化再現培養系に添加した結果、本来、減数分裂への移行を示さない雄生殖腺内の生殖細胞が濃度依存的に減数分裂期に移行することが明らかとなった。FR11は減数分裂移行期のXX生殖腺にドミナントに発現し、XY生殖腺では発現しないことから、性分化期のXX生殖腺の生殖細胞の減数分裂移行には、FR11が重要な役割を示すことが明らかとなった。一方、雄生殖腺で発現の増加するものの中でMR-2は、精細管形成期の間充織細胞にドミナントな発現を示すことが明らかとなった。MR-2の発現の詳細をトレースした結果、精細管構造の構築は、間充織細胞がMR-2を発現した後、その細胞がセルトリ細胞を取り囲む位置に局在することによって形成が開始することが示唆された。
|