脂肪細胞に蓄積する脂質の多くは食事由来の脂質や肝臓で合成された脂質がリポタンパクとして輸送され、リポタンパクリパーゼやリポタンパクレセプターにより供給されたものです。超低密度リポタンパクレセプター(VLDLレセプター)は脂肪細胞に高く発現し、中性脂肪に富むリポタンパクの供給に貢献していることを示しました。また、LDLレセプターファミリーの遺伝子の1つであるLRP5が食事由来のコレステロールを輸送するカイロミクロン・レムナントの肝臓への取込みを担っていることが示してきました。さらに、LRP5は糖代謝にも重要な役割を担っていることが示されました。LRP5とそれによく類似したLRP6は発生・分化に重要なWntの共役レセプターで、脂肪細胞ではWntシグナルが分化のスイッチとして機能していることが示されています。しかしながら、脂肪細胞におけるLRP5・Wntシグナルの実体は不明な部分が多々あります。 脂肪細胞へのリポタンパク由来の脂質の輸送や脂肪細胞の分化・成熟におけるWntシグナルの役割を明らかにするために、またコレステロールや糖代謝におけるLRP5/Wntシグナリング系を明らかにするために、Wntを大量に発現する細胞を樹立して、培地よりWntタンパクを部分精製し、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌増強がベータカテニンの安定化を伴う古典的カノニカル経路ではなく、非カノニカルな経路により担われる可能性を示しました。 また、東京大学先端研の酒井教授のグループと共同で、絶食時におけるケトン体代謝に重要なアセチルCoA合成酵素が転写因子KLF15により制御されることを示しました。さらに、耐糖能異常の代償機構に転写因子SOX6が関与していることを示しました。高脂肪食や遺伝的肥満マウスではSOX6がダウンレギュレーションを受けることにより、インスリン分泌が増加し、結果的に高インスリン血しょうを引き起こす可能性を示しました。
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