肥満、特に内臓肥満は虚血性心疾患の重大な危険因子である。レプチンをはじめとするアディポサイトカインの同定に端を発して、脂肪細胞が内分泌器官として重大な機能を持つことが明らかとなり、脂肪細胞がエネルギー代謝だけではなく、血管を含めた多様な臓器に直接的な影響を及ぼすと考えられるようになっている。従って、今後の心血管疾患の発症機構の研究や治療法開発には脂肪細胞機能の制御機構を理解することが重要となる。本研究計画では(1)脂肪細胞分化におけるKLFファミリー転写因子を中心とした転写ネットワークの解明、(2)脂肪細胞大型化に伴う形質変換を制御する転写ネットワークの解析、特にKLFとコファクターの解明、(3)KLFおよびそのコファクターに作用し、脂肪細胞機能を修飾する薬剤の同定を目的として研究を進めた。 我々は従来の研究で、平滑筋形質変換に重要な転写因子KLF5を同定した。ノックアウトマウスなどの結果より、KLF5が心血管系の組織リモデリングに重要なことを明らかとした。我々はさらにKLF5ヘテロノックアウトマウスでは白色脂肪組織の形成が著明に障害されていることを見いだした。脂肪細胞分化におけるKLF5機能に着目して検討を行い、KLF5が脂肪細胞でC/EBPβおよびδによって発現誘導され、発現したKLF5はC/EBPβ/δとともにPPAR_<γ2>の発現を制御することによって脂肪細胞分化を調節していることが分かった。つまり、KLF5はこれらの転写因子とネットワークを構成しており、このネットワークの機能が脂肪細胞分化のみならず、病態での脂肪細胞機能制御に重要であると考えられる。今後、特にメタボリック症候群などの病態におけるこの転写因子ネットワークの機能について検討を進める予定である。 また、KLF5がPPAR_<γ2>やC/EBPと直接相互作用することから、これらの相互作用を指標とするhigh-throughput薬剤スクリーニング系を確立した。次年度以降の研究で、このスクリーニング系を用いて薬剤探索を行うことによって、メタボリック症候群に伴う各種の病態に対して作用する薬剤を同定することが出来ると考えられる。
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