研究概要 |
脂肪組織が、間葉系だけでなく、内皮、内臓、視神経にも分化する幹細胞を総細胞数の10%を超えるほど多量に含むことは、多くの幹細胞研究者が認める新事実になってきた。このことは、脂肪組織の役割だけでなく、脂肪組織の形成機構について根底的な意識変革を求めている。今後の脂肪研究では、「何故、脂肪に多量の幹細胞が集積するのか?」、「何故、脂肪の幹細胞は暴走しないのか?」等の疑問が焦点になるになる。その解明に向けた先陣争いはすでに始まっている。申請者は、成熟脂肪細胞を天井培養と称する系で培養すると、多数の幹細胞が引き寄せられて表面を遊走していること見つけ、3T3-L1細胞が脂肪分化に伴って分泌するラミニン-8(α4β1γ1)を16年前に発見しているが、最近、その構成鎖であるα4鎖のG領域が生体内で切断されていることを確認し,α4鎖G領域の強いヘパリン結合活性によって、細胞表面のシンデカンを介する増殖因子(FGF-2)シグナルが遮断されることを見つけた、さらに、可溶化基底膜(マトリゲル)とFGF-2をマウスに皮下注射して脂肪を新生させる系にα4鎖G領域断片を添加すると、脂肪形成が完全に抑制されることを発見した。これらの知見に基づいて、本研究では「脂肪分化に伴って発現するラミニンα4鎖から切断されたG領域が、ヘパリン結合性増殖因子と競合的にシンデカンに結合して、成熟脂肪細胞の表面に集簇した幹細胞を増殖刺激から遮断して保育している因子である」という新概念を提出した。この成果は、これまで治療の手段がないとされてきた高齢化に伴う諸疾病を見直して、新視点に立った診断、治療、予防薬を開発するための基盤として重要である。
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