研究課題
胚発生が完了した成体組織に内在している幹細胞を、胚性幹細胞と区別して、体性幹細胞と呼ぶが、これらは成体組織の更新・修復に重要であり、内在している組織を作っている細胞種にだけ分化するものと信じられてきた。ところが、この体性幹細胞が思いもよらない分化能力を持ち、当該組織の発生学的系列とは異なる細胞種にも分化する例が次々に示されている。この体性幹細胞の集積部位として、最近、脂肪組織が注目されている。ここには、同じ系列に属する脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞や筋芽細胞に分化できる間葉系幹細胞だけでなく、血球系や神経系にも分化できる幹細胞が含まれることが判明している。最近の研究では、この脂肪由来幹細胞(Adipose-derived Stem Cells : ASCs)の分化スペクトルが血管内皮細胞や上皮細胞にまで広がっている。このことは、脂肪組織が体内代謝制御の中心として機能しているだけでなく、組織の更新・修復においても重要であることを示している。我々は最近、このASCが成熟脂肪細胞の表面を活発に遊走しているだけでな、成熟脂肪細胞から放出された脂肪滴を細胞周辺に集めるという驚くべき挙動をしめすことも発見した。この成熟脂肪細胞との相互作用は、幹細胞の分化に対しても強い抑制効果を持つことも発見した。すなわち、脂肪組織から採取したばかりのASCは血球系幹細胞や内皮幹細胞マーカーであるCD34陽性であるが、成熟脂肪細胞から離れて増殖をはじめると、間葉系幹細胞マーカーは維持されるものの、CD34陰性になる。ところが、このCD34陽性形質は脂肪細胞上で重層培養すると維持されることを見つけた。すなわち、脂肪細胞表面との接触は未分化幹細胞を保育する効果を持っているのである。これらの発見は、メタボリックシンドロームの誘因として解析されている脂肪炎症の局面で登場するマクロファージの由来について大きな問題を提起している。
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