研究概要 |
我々は理化学研究所前田士郎博士との共同研究により2型糖尿病発症と関連する複数の新規の遺伝子多型(Wnt5B, KLF5)を同定した。最近、イントロン1に存在するSNPが糖尿病発症と相関する転写因子TFAP2Bを同定し、本転写因子が脂肪組織に発現すること、脂肪細胞の分化に伴って発現が増加することを報告した。さらに、糖尿病患者で認められるこのSNPはその転写因子の発現をin vitroの検討で増強することが判明している。 この転写因子TFAP2B(AP-2β)をアデノウイルスベクターにて3T3L1脂肪細胞に発現させると、インスリン受容体、insulin receptor substrate(IRS)-1のレベルで、チロシンリン酸化を低下してインスリン情報伝達を障害し、インスリン抵抗性を誘導すること、インスリン存在、非存在下に関わらず、Glucose transporter(GLUT)4のTranslocationを促進して、糖輸送活性を著明に増加させること、その機構に、Grb2 associated binder-1(Gab1),Phospholipase C(PLC), atypical Protein Kinase Cの活性化が関与することが判明した。さらに、TFAP2Bを3T3L1脂肪細胞に発現させると、Tumor Necrosis Factorα(TNFα),IL-6などのサイトカインの発現増加が認められ、一方、アディポネクチン発現を抑制することも見出している。 これらの成績は、TFAP2Bが脂肪細胞の肥大化およびサイトカイン分泌異常に関与する可能性を示唆して、その分子機構の詳細を検討中である。
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