研究概要 |
細胞質おけるカルシウム濃度は百種類以上の蛋白質分子の活性制御機構に関与しており、その時間的・空間的制御は細胞機能に必須である。イノシトール1,4,5三リン酸受容体(IP3R)は小胞体からのカルシウム放出を担う主要なチャネル蛋白質である。神経グリア回路網におけるこのチャネル蛋白質の機能や存在意義を明確にするためには、遺伝子改変マウスの作製が急務である。三種のIP3Rサブタイプのうち、タイプ1の欠損マウスは致死であるため、解析が不可能である。そこで細胞種特異的にタイプ1 IP3Rを欠損するマウスの作製を行っている。現在までに、条件的にタイプ1 IP3R遺伝子をノックアウトできるようにゲノム遺伝子を改変したマウス胚性幹細胞(ES細胞)の樹立を完了し、キメラマウスを作製した。しかし、キメラマウスと野生型マウスの交配によってヘテロマウスを得ることができていない。これは、キメラマウスの生殖細胞に遺伝子組み替えES細胞由来のものがない可能性を示唆している。現在、他のES細胞クローンを用いたキメラマウスの作製を行っている。 一方、IP3受容体が細胞質側から様々な制御を受けていることは良く知られているが、小胞体内腔側からも制御されているか否かは、その機構が不明なことから長い間論争となってきた。我々は生化学的手法によってIP3受容体の小胞体内腔側ループに結合する蛋白質ERp44を同定した。カルシウムイメージング実験及び人工脂質二重膜に埋め込んだIP3受容体タイプ1を用いた電気生理学的実験から、ERp44は小胞体内腔のレドックス状態・カルシウム濃度・pH変化に依存してIP3受容体の活性を制御していることが示唆された。これは小胞体内腔からのIP3受容体の機能調節機構を明確に示した最初の例であると考えられる。
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