本研究は、脳のアストロサイト特異的かつ時期特異的遺伝子操作マウスを作成し、NMDA型グルタミン酸受容体の内在性リガンドと考えられているアストロサイト由来D-セリンによる神経伝達調節と脳機能における役割を、個体レベルで検証することを目的としている。この目的のために、アストロサイト特異的に発現しD-セリンの合成を担うセリンラセミ化酵素(SR)遺伝子を脳部位特異的かつ時期特異的に欠損させたマウスを作製し、脳機能を分子生物学的、生理学的および行動学的観点から解析する。 本年度は、マウスSRゲノム遺伝子を含むバクテリア人工染色体(BAC)ベクターをバイオリソースより入手し、大腸菌内での相同遺伝子組換え法により、SRのタンパク質コード開始メチオニンに合わせ、薬剤投与により活性誘導が可能な遺伝子組換え酵素CrePR遺伝子を挿入した標的遺伝子組換えベクターを作製した。また、同じBACを用いて、SRの酵素機能に必須の領域をコードする第3エクソンの上流と下流のイントロン中にCrePRの認識配列であるloxPを導入し、かつ遺伝子欠損をモニターするためにloxP間の欠損により蛍光蛋白質EGFPを発現するようにした標的遺伝子組換えベクターを構築した。現在、C57BL/6マウス系統由来ES細胞にこれらのベクターを導入し、標的遺伝子組換え細胞の取得をすすめている。組換えES細胞が得られ次第キメラマウスを作成しマウス系統を確立する予定である。
|