視覚機能を担う光受容タンパク質(明暗視を司るロドプシン、色覚を司る錐体光受容タンパク質)が関わるソフトな分子間相互作用について、主にCCD分光光度計を用いた吸収分光学・反応速度論的な方法により研究を行った。 (1)ロドプシンの機能発現機構 天然の視細胞外節膜試料を用いて、ロドプシンが光受容した後、活性化状態形成に至る反応過程をG蛋白質(Gt)存在下・非存在下で吸収スペクトル・反応速度両面から詳細に観測した。その結果、Gtを活性化するメタII中間体はGtの不活性型であるGDP結合型とは結合しないが、その前駆体であるメタIb中間体が結合し、その後のメタIIによる活性化を引き起こすことを解明した。また、ロドプシンをリン酸化して不活性化する酵素を発現・精製し、分光学的研究に適用できるようにした。 (2)錐体光受容タンパク質の機能発現機構 色覚異常を引き起こす変異が挿入されている錐体光受容タンパク質の機能を解析した。膜貫通領域に存在するプロリン残基を置換した場合は錐体・桿体のタンパク質共機能しないが、Gtとの相互作用部位近傍に存在するグルタミン酸残基を置換した場合は、桿体の蛋白質のみ機能することがわかった。また、中間体の挙勦についても錐体蛋白質ではアミノ酸変異の影響が観測されたが、ロドプシンでは効果が観測されない場合が見られた。これらの結果は、錐体光受容タンパク質特有の構造変化、G蛋白質との相互作用の存在を示唆している。 (3)ノックインマウスを用いた桿体外節膜における情報伝達機構 上記のタンパク質間相互作用が天然膜環境で視覚機能に与える影響を検討するため、視細胞外節膜中に任意の受容体を発現するノックインマウス系を構築した。中間体の反応速度が異なるロドプシン変異体を発現する視細胞の応答解析と分子の挙動を比較することにより、これらの中間体が視覚機能に果たす役割を同定することができた。
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