1986年に米国UCLAのRomeらのグループによってラット肝臓より単離されたvaultは3種類の蛋白質と1種類のRNAによって構成されており、分子量約13MDa、サイズが約34×60nmでウィルスを除けば今日までに報告されている中では最大のRNA-蛋白質複合体である。ほとんどの粒子は細胞質内に存在し、全体量の5%程度が核膜孔複合体(NPC)とその周辺に局在することは知られているが、発見から18年以上を経た現在もなお詳細な機能は明らかになっていない。したがって、我々はvaultを構成成分にばらすことなく生体内に存在するそのままの状態で結晶化し、X線結晶構造解析によって粒子全体の立体構造を原子レベルで解明することにより、分子の形からvaultの本質的な機能解明に迫ることを目的として研究を行った。 出発材料としては量も良く研究されているラット肝臓を用いた。我々はすでにポリエチレングリコールを沈澱剤として用いた結晶化条件で9Å分解能の反射を示す正方晶系の結晶を得ていたが、条件をさらに最適化することで空間群P1、格子定数α=440.9Å、b=600.8Å、c=635.7Å、α=67.1°、β=77.7°、γ=70.0°の新しいタイプの結晶を得た。この結晶は放射光施設SPring-8の生体超分子専用ビームラインBL44XUにおいて最高で4.5Å分解能の反射を示す良質の結晶であった。したがって、現在はこの結晶を用いて構造解析を進めており、すでに10Å分解能のNativeデータとMIRで位相決定を行うために必要な重金属誘導体の回折強度データは得ている。
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