本課題研究では、(1)微量で迅速に構造情報が得られるという特徴を有する質量分析(MS)をクロスリンク法と組み合わせて用いることにより、ソフトな相互作用からなるタンパク質複合体の分子間相互作用およびその部位について解析する研究手法を構築する。(2)複合体を構成するタンパク質ドメインの構造についてはNMRで原子レベルでの解析を行う。(3)両者の結果を統合することにより、解析できるタンパク質の分子量の上限のない解析系を構築することを目指して研究を行った。この方法論を用いて、ドメインレベルで立体構造解析が進められている転写因子c-Myb DNA結合ドメイン(c-Myb DBD)と熱ショック因子DNA結合ドメイン(HSF3 DBD)の相互作用領域ならびにヒト基本転写因子TFIIEの構造について解析した。 1.c-Myb DBDとHSF DBDの相互作用領域の解析 NMRで既に構造解析が行われているc-Myb DBDとHSF DBDが1:1のストイキオメトリーで結合することをエレクトロスプレー質量分析(ESI-MS)法で確認した後、クロスリンク法と質量分析を組み合わせて用いることにより、相互作用領域の解析を行った。その結果、c-Myb DBDのRepeat2の領域とHSF3 DBDのDNA認識ヘリックス付近が11.4Å以内に近接しているということが示唆された。 2.ヒト基本転写因子TFIIEの構造解析 我々は、これまでにTFIIEβコアドメインに加え、TFIIEα Znフィンガードメインの構造を決定することに成功したが、ヒトTFIIE全体の分子構造については明らかにされていない。全長の分子の構造解析に成功していないヒトTFIIEについてクロスリンク法と質量分析を組み合わせて構造解析を行った。
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