研究概要 |
ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応を担う蛋白質には,活性中心にヘム鉄や鉄-硫黄クラスター(FeS)を持つものが多い.したがって,ミトコンドリア機能の維持のためには,ミトコンドリア膜を介した鉄の輸送が重要である.しかし,過度の鉄の蓄積はヒドロキシラジカルの生成を促し,最終的にミトコンドリア機能が失われる. ヒトABCB6蛋白質は酵母ATM1ホモログとして同定されたABC輸送体である.ABCB6は現状で機能未知であるが,ATM1同様にミトコンドリアの鉄の恒常性維持に寄与していることが想像され,ミトコンドリア病の原因遺伝子の可能性もある. ABCB6についてはC末端可溶性領域(CSD,285残基,31kDa)について^2H/^<13>C/^<15>N標識試料を調製し,ADP/ATP非結合状態(apo型)において3次元三重共鳴NMRを測定することで,主鎖NMRシグナルの帰属を試みた.解析の結果,約70%の主鎖NMRシグナルの帰属に成功した.この帰属の結果,ADP/ATP結合領域付近の残基に対応する主鎖シグナルが観測されないことが判明した.試料がapo型であることから,ADP/ATP非存在下では当該領域にコンフォメーション多形が存在し,交換によるシグナルのブロードニングが起こっていると考えられる.つづいてADPとのタイトレーション実験を行った結果,過剰量のADP存在下で新たなクロスピークが観測された.これはADPの存在によりADP/ATP結合領域の構造が安定化されたためであると考えられる.前述のapo型の際と同様の解析を行うことによって,ADP存在下での主鎖シグナルの帰属も行った.
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