がんという疾病により患者が死に至る過程が、遺伝子レベルだけでなく、細胞レベルでも詳細に解析され、「がん」の細胞学的特性が明らかにされてきた。遺伝子レベルでの異常により「がん化」した細胞は、細胞周期の異常、脱分化、細胞死からの脱却等の性質を獲得する。さらに、より悪性度を増すステップとして、細胞間の接着が抑制されると同時に運動能が増し、より強い浸潤・転移能を有するようになる。これまでのがん研究では、これらの各ステップが遺伝子レベル・タンパク質レベルで詳細に明らかにされ、逆に、これらのがん研究が正常細胞の多くの基本的原理を明らかにする契機にもなった。本研究領域では、これまで積み重ねられてきたがん細胞の特性に関する膨大な研究成果を最大限に利用して、「がんの発生・悪性化」という現象を、単なる個々のステップの記載ではなく、細胞と組織という統合的システムの破綻として捉えることを目的とする。総括班ではこの目的を達成するため、本研究領域を次の5項目に分類し、領域全体の研究実施を統括した。 研究項目A01:がん細胞の増殖・死(項目長:秋山) 研究項目A02:がん細胞の分化・極性(項目長:大野) 研究項目B01:がん細胞の接着・運動(項目長:竹縄) 研究項目B02:がん細胞と間質の相互作用(項目長:清木) 研究項目B03:がん細胞と血管・リンパ管新生(項目長:高倉) さらに、研究班間での相互連携や、研究課題の円滑な推進を図るため、総括班会議、研究項目長会議、連絡会議やワークショップを適宜開催して各研究班に対する研究支援を行ってきた。また、本年度は本特定領域研究の最終年度に当たるため、研究期間全体の成果のまとめを行うと共に、統括の意味を含めて平成22年1月に全体シンポジウムを開催した。
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