本課題は最近開発したオージェ電子プローブエネルギー分散型表面XAFS法を高度化し、動的表面過程の時間分解測定に適用することで、表面種のダイナミクスを明らかにしていくことを目的としている。今年度は本課題の初年度であり、繰り返し表面過程に本手法を適用することで時間分解能を向上させ、表面の動的過程の研究への応用を行った。 今回、注目した表面の繰り返し過程は、短い時間幅で表面に飛来した分子線が表面に一時的に滞在し、ある場合には反応を誘起した後、表面から脱離するまでの過程である。このような過程を時間分解表面XAFSで追跡するにあたり、重要なのは適当な時間幅を持った大フラックスのパルス分子線源である。今年度は、ビームの時間構造をin-situで診断するための飛行時間型質量分析計を備えた大フラックスパルス分子線源の開発を行った。このパルス分子線は、時間幅500μs〜3msで、1パルス当たりの衝突分子数は最大で6x10^<14>個である。パルス分子線の表面到着をトリガーにして、表面に一時的に生成する吸着状態のXAFSスペクトルを3〜50msの時間分解能で測定するシステムを製作した。この測定システムを用いて、Rh(111)上に吸着したNO単分子層の上にNOパルス分子線を照射したとき生じる過渡的表面種の時間分解測定を行った。その結果、約50msの寿命で表面に滞在する吸着precursor状態のNOを捉えることができた。興味深いことに、先に表面に吸着させる単分子層をCOに変えると、このようなprecursor NOは全く観測されなかった。今回、吸着precursorのような過渡種を表面XAFSで捉えることができるようになったので、今後、様々な吸着precursorの吸着構造に関する情報を得ることが可能になる。
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