我々はエネルギー分散した放射光X線を固体基板に照射し、その吸収によって放出されるオージェ電子を位置分解的に同時検出することによって、高速で表面のX線吸収微細構造(XAFS)を測定するシステムを開発してきた。本プロジェクトではこの手法を高度化して、固体表面で進行する化学反応の機構の研究に応用することを目的とした。この高度化によって連続測定で1スペクトルあたり1秒程度で表面種の動的過程を追跡するとともに、気相種も同時に計測することを可能にした。また、繰り返し現象に対して、時間ゲートをかける検出法によって、10ミリ秒の時間分解能で単層以下の表面吸着種の検出ができるようになった。さらに、この手法をアンジュレーター光源による時間分解XPS法に拡張し、単層以下の表面吸着種に対して2ミリ秒の時間分解能でその動的変化を追うことを可能にした。 これらの手法を表面反応キネティクスのリアルタイム計測に応用することによって、これまでの手法では達成できなかった次の3つの主な研究成果を得ることができた。 (1) Rh上のNO還元反応下におけるNOダイマー中間体の関わる新しい反応パスの発見 (2) Pd上のCO酸化反応下における表面酸素相転移と反応性との関係の解明 (3) NOパルス分子線に誘起されるミリ秒オーダー以下の寿命の過渡的高密度吸着状態の検出 このような表面種の高速観測手法の開発と表面動的過程への応用によって、これまでの静的な観測では見つからなかった新しい動的過程を詳細に研究する道を拓いた。
|