研究概要 |
本研究では,理解して制御することを目的として,超高速非線形分光法による表面吸着分子のダイナミクスの実時間観測に加えて,最適化波形整形法による分子の励起状態制御の研究を行った。表面吸着分子のダイナミクスに関しては,近赤外パルス照射による温度ジャンプ法と和周波発生(SFG)法を組み合わせた時間分解振動分光法によりシクロヘキサン/Ni (111)表面系とメトキシ(CH_3O-)/Ni(111)表面系について検討した。その結果,シクロヘキサン/Ni(111)系に関しては温度上昇により,低吸着相にあるシクロヘキサン分子が変化する様子を実時間で追跡・観測した。その結果,低吸着相にある分子は,瞬間的(ピコ秒オーダー)な温度上昇により準安定な高吸着相へと約100psかけて変化していき,その後,表面温度の低下とともに元の低吸着相へ戻っていくことを明らかにした。また,メトキシ/Ni(111)系に関しては,温度上昇と引き続き生じるナノ秒オーダーの冷却では,メトキシは分解することなく配向や吸着サイトを過渡的に変化させていることを明らかにした。励起状態制御の研究に関しては,高出力波形整形システムの作製とペリレン結晶の2光子励起効率の制御メカニズムを検討した。その結果,低温(約40K)のペリレン結晶において励起効率を倍増させた波形が,室温における結晶及び溶液系の試料に関しても励起効率を増大させることを見出した。結晶と溶液の両方で同じパルス波形によって同様の効率増大が確認されたことから,効率増大には分子内のプロセスが主な役割を果たしていることを明らかにした。さらに,得られた波形(包絡線)は約370cm^<-1>の周波数成分を持ち,それがペリレン分子の電子遷移と強く相互作用する振動モードと周波数的に一致することから,励起効率の増大はこの振動モードの励起が関与していると結論した。
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