研究課題
特定領域研究
溶液からの結晶成長過程は、熱的揺らぎによって生ずる溶質クラスターが偶然臨界サイズを超えた場合に安定核となりマクロな結晶へ成長すると考えられているが、このようなランダムで速いダイナミクスを追跡することは容易ではなく、結晶生成過程の詳細なメカニズムは現在でも未解明である。本研究では、液体窒素温度で凍結、ガラス化した芳香族分子(ピレン)のメチルシクロヘキサン/イソペンタン混合溶液にns紫外パルスを数千発照射するとマクロな結晶が析出することを見出し、レーザー照射の繰り返しにより徐々におこる結晶化を溶液相からの結晶化プロセスの一つのモデル系として位置づけ、結晶成長ダイナミクスを時間分解分光法を用いて詳細に検討した。この系では、レーザー未照射では観測されないピレンのエキシマー蛍光がレーザーパルスの照射回数に比例して増加する様子が観測され、これはレーザー照射に伴う結晶の段階的な成長を示している。またレーザーパルス単発照射による蛍光強度の時間変化測定では、同程度(〜数ns)で起こるモノマー蛍光の減衰とエキシマー蛍光の立ち上がりが観測され、その後モノマーが〜130 ns、エキシマーが〜30 nsと異なる寿命で減衰したことから、レーザー照射により溶質分子の近傍のみが過渡的に融解し、それにより近隣分子間でのエキシマー形成がレーザーパルスの時間幅内で起こり、数ns数後には分子の並進拡散が再び凍結されたということが明らかとなった。先の段階的な結晶成長過程と併せて本結晶化のダイナミクスを考えると以下のようになる。まずレーザーパルスの時間幅内でエキシマー(2量体)形成が起こり、エキシマー解離速度が溶媒の融解時間(数ns)より十分長いため2量体はそのまま凍結される。このような形で最も不安定なクラスターである2量体が安定に保持されるため臨界核形成の確率が上がり、レーザーパルスの複数照射の間に効率よく核形成、成長が起こったと結論づけられる。
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