研究概要 |
昨年度、独自に開発したシクロペンテンアヌレーション法を駆使し、ダイズシスト線虫孵化促進物質glycinoeclepin AのCD環部の不斉合成法を確立した。今年度は、A環部の構築に検討を加え、2,2-dimethyl-1,3-cyclohexanedioneから不斉還元および酸素渡環反応を経てA環部ケトンを不斉合成した。次いで、対応するジメチルヒドラゾン誘導体から橋頭位アニオンを発生させ、銅塩の存在下でCD環部と連結させることにより、glycinoeclepin Aの不斉全合成を達成した。この橋頭位アニオンを用いるA環部導入法は、従来の全合成例より格段に効率的であるのみならず、ジャガイモシスト線虫の孵化促進物質solanoeclepin Aの全合成への応用が期待される。なお、solanoeclepin Aの合成研究に関して、側鎖上のシクロプロパンカルボン酸の立体選択的構築法のモデル検討を行った。すなわち、(+)-カンファーからbicyclo[2.1.1]hexyl基を有する光学活性アリルアルコールを合成し、酒石酸アミド誘導体を用いる不斉Simmons-Smith反応に付して、極めて高い立体選択性でシクロプロパン化が進行することを確認した。さらに今年度から、熱帯植物インドセンダンより殺虫成分として単離された高次構造天然物azadirachtinの全合成研究に着手した。その構造中に7つの環および16個の不斉炭素を含み、特にC8位四級不斉炭素の立体選択的構築が困難であることから、azadirachtinの全合成は未だ達成されていない。今年度は、ジエノールトリフラートの位置および立体選択的ヒドロホウ素化反応による新規アリルボラン合成法を開発し、C8位四級不斉炭素の立体選択的構築に成功した。
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