研究概要 |
1.カルボアニオン転位による新変換法の開発:新規なretro-Brook転位を開発した。アリルシリルエーテルに強塩基を作用させその後,適切な求電子剤と反応させるとR_3Si基が酸素からアリル末端炭素に1,4-転位し,エノレートが捕捉された(Z)-γ-アルコキシアリルシランが収率良く得られることを見出した.さらに本転位がケイ素上完璧な立体保持を伴って進行していることも明らかにした.本反応で得られるシランは官能基化されたアルデヒドエノールエーテルであり合成素子として有用である.また,本反応は光学活性ケイ素化合物の官能基変換法としても活用が期待される. 2.面不斉型キラル合成素子の開発と応用:9員環ジアリルエーテルおよびジアリルアミン類が室温下安定な面不斉を有していることを見出すとともに,それらを光学活性体として調製することに成功した.またこれら面不斉分子の各種分子内,分子間反応が立体特異的に進行することを明らかにした.例えば光学活性アミドのCope転位は面不斉から中心性不斉への完璧な立体変換を伴って進行し,ピロリジンを単一の立体異性体として与える.この様な不斉変換法を用いることで面不斉ヘテロ中員環をキラル合成素子として活用することが出来る.今回,本手法を用いて,光学活性なアミドからkainic acidの両鏡像体,および(+)-γ-lycoraneを不斉合成した. 3.ヒドロアルミニウム化反応に関する研究:プロパルギルアルコールのヒドロアルミニウム化反応は置換アリルアルコールの立体選択的合成法として有用な反応である.今回,この反応の速度がプロパルギルアルコールのγ位置換基(アルキニル末端置換基X)によって著しく異なることを見出した.γ位置換基の反応加速能の序列はTPS>Ph【approximately equal】TBDPS>TIPS【approximately equal】TMS>>alkylであり,その効果はエチンπ軌道との超共役を考えることで理解できる.このケイ素効果を利用すれば複数のアルキニル基間のグループ選択的変換が可能となることから,本知見は複雑な生体機能分子の合成に有用と考えられる.
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