研究概要 |
FD-838は1985年に大正製薬のグループによりAspergillus fumigatus fresenius F-838より単離構造決定された、1-oxa-7-azaspiro[4.4]non-2-ene-4,6-dione骨格を有する天然有機化合物である。白血病細胞の分化誘導活性、グラム陽性菌の生育阻害活性を有し、抗癌剤のリード化合物として期待されている。しかし、天然の菌体がFD-838を生産しなくなったため、その生物化学的研究には化学合成による供給が必須である。なお、絶対立体配置は決定されていない。我々は類似の骨格を有するazapsirene, pseurotin, synerazolといった化合物の全合成に成功している。本研究では、これらの全合成研究の知見を利用し、FD-838の全合成研究を行った。 Sharplessのdihydroxylation, MgBr2をルイス酸触媒として用いるジアステレオ選択的な向山アルドール反応等を鍵反応として、高度に官能基化した多置換ラクタムを光学活性体として合成した。このラクタムとフルフラール誘導体とのアルドール反応を行った。以下、酸化反応、脱水反応、オレフィンのエポキシ化、メタノールによるエポキシドの開環反応、2級アルコールのケトンへの酸化、シリル保護基の除去により、初のFD-838の全合成に成功した。施光度の測定により、その絶対立体配置を決定した。
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