研究概要 |
多様な生理活性を併せもつ天然生理活性物質(天然物)においては、ある活性が他の活性の副作用として働き、実用化に問題を生じる場合が少なくない。したがって、それらの活性発現機構を明らかにすることによって、活性を構造ユニット別に分離することができれば、副作用の低減のみならず望みの活性を増強できる可能性がある。それはナノレベル以下で精密に分子設計・合成することにより初めて成し遂げられる。 本年度は、以下の3種の天然生理活性物質の全合成を達成した。1)ヘリコバクター・ピロリ菌に著効を示すactilopyrone Aの全合成を、4つのセグメントから合成した安定な共役系をもつ前駆体の還元的非共役化を開発することによって完成した。2)5-リポキシゲナーゼ阻害活性を有するlagunamycinの全合成を、隔離された1個の不斉炭素の構築に、不斉ビニロガスアルドール反応を活用して完成し、同時に絶対構造も確定した。また、温度可変によるNMR測定を精密に行うことにより回転異性体の比率を初めて確定した。3)脊髄神経再生作用を有するvillaxanthoneの最初の全合成を完成させると同時に絶対構造を決定した。全合成は独自に開発した[4+2]付加環化反応(空気と2,6-di-t-butyl-4-methylphenolの存在下)を鍵として行った。また、昨年度全合成を完成しxanthocillin Xの種々の類縁体を合成して構造-活性相関研究を行い、造血幹細胞の増殖作用の活性発現中心に関して新知見を得た。
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