研究概要 |
本研究では,ドーパント分布がプロトン導電性に与える影響を明らかにすることを目的として,ペロブスカイト型酸化物のプロトン伝導体として知られるY_2O_3をドープしたSrZrO_3をモデル物質として,ドーパント層を周期的に挿入した人工格子を作製し,電気導電性の評価を行った.SrZrO_3は4価のZrサイトをY,Scなどの3価の陽イオンで数%置換すると優れたプロトン伝導性を示すが,ドーパントイオンはプロトンを導入するための電荷補償としての役割だけでなく,結晶内でのプロトンダイナミクスにも大きな影響を及ぼすと考えられている. PLD法によって(001)SrTiO_3および(001)MgO基板上にSrZrO_3(SZO)とY_2O_3を交互に積層して全膜厚が約200nm程度の人工格子を作製した.XRDの解析,電子顕微鏡像から,異なる結晶構造のY_2O_3を挿入してもSZOの構造がほとんど乱れていないことが確かめられた.人工格子はエピタキシーがよく,挿入したドーパント層が平坦な界面を有している. 電気導電率の雰囲気依存性から,400℃以下では主にプロトンが伝導に寄与していることが確かめられた.この温度領域の人工格子のプロトン導電性を比較すると,SZO層の厚さが10nm程度で導電率が最も高く,活性化エネルギーが最小であることがわかった.一方,Y_2O_3層の厚さ,見かけのY_2O_3濃度に対する明確な依存性は見られなかった.Y_2O_3層がドーパント層としてプロトンが人工格子内に吸蔵されると考えると,Y_2O_3層はSZO層との界面でドーパントとしての役割を果たしているものと考えられる.本研究により,ドーパント分布をナノメータスケールで人工的に制御することで,ドーパント分布のプロトンダイナミクスへの影響を実験的に考察できる可能性が初めて示された.
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