研究概要 |
本研究では,パルスレーザデポジション(PLD)法を用いてナノメータスケールで人工的な界面構造を構築し,界面での局所的な配列の変化がイオン拡散に及ぼす影響について調べることを目的として行った.モデル物質としてプロトン導電性ペロブスカイト型酸化物として知られるYをドープしたSrZrO_3を選択した.PLD法により(001)MgO基板上にSrZrO_3層を成膜し,SrZrO_3層とYのドーパント層を交互に積層することでドーパント層を周期的に挿入した人工的な多層膜を作製した.結晶構造とプロトン伝導性,電子構造の関係について研究を行った. 作製した多層膜は人工的に数原子層の酸化イットリウムが挿入された平坦な界面を持つエピタキシャルな構造であることがわかった.また,この人工的なヘテロ界面を有する構造がプロトン導電性を有していること,および,プロトン導電性が多層膜の周期に依存することを明らかにした.一方,多層膜のバンドギャップ付近の電子構造はバルク結晶とは異なり,バルク結晶のO1sのX線吸収スペクトルにおいて観測されるバンドギャップ内のアクセプター準位やホールの構造はほとんど存在しないことが明らかになった。 本研究によって,多層膜ではバルク結晶とはプロトン伝導する温度領域,活性化エネルギーなどが異なり,プロトン導電性に大きな違いがあることがわかった.このような薄膜,多層腺による研究はこの種のプロトン伝導体で問題となっている高い粒界抵抗の原因を明らかにするのにも役立つと期待される.
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