研究課題
金属蛋白質や酵素の機能解明の研究が精力的に行われている。特に、化学反応論の立場からの研究では、活性中心を構成する金属イオン周辺のアミノ酸残基の役割の解明が主要な課題となっている。これに対し本研究課題は、「我々が望む反応を触媒する金属酵素や機能を有する金属蛋白質を作成する」によって構造と機能の分子レベルでの理解を検証することを中心課題としている。昨年度は、アポフェリチン内部に取り込まれた金属イオンは特定のアミノ酸に配位しているのか、あるいは空間にランダムに存在するのかを明確にし、その性質をどのように利用できるか検討を行った。本年度は、鉄(III)シッフ塩基錯体をヘム酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ(HO)の活性中心に挿入し作成した鉄(III)シッフ塩基錯体・HO複合体を作成した。鉄(III)シッフ塩基錯体・HOは、HOの電子伝達蛋白質であるシトクロムP450レダクターゼ(CPR)より電子の供給を受け、HO活性中心中での鉄シッフ塩基錯体の還元反応を実現するとともに、電子伝達経路を三次元的に設計することによって、電子伝達反応の制御を行った。具体的には、鉄シッフ塩基錯体へ、ヘムと同様にArg177と水素結合を形成するためのプロピオン酸を導入した錯体1、比較としてカルボン酸を導入した錯体2、無置換の錯体3を合成し、HOと複合化を行なった。各複合体の結晶構造解析の結果、1・HOは設計通りHOのArg177と錯体1のプロピオン酸置換基がヘムと同様に水素結合を形成していた。一方、2・HOはArg177が蛋白質の内側へ向きを変え、3・HOは水素結合を形成していなかった。1・HOが最も還元されにくいと、各複合体の鉄(III)/鉄(II)の酸化還元電位、及びジチオナイトによる還元速度定数が支持したのに対し、CPRから1・HOへの電子伝達速度定数は、2・HO、3・HOの速度定数と比べそれぞれ1.6倍、3倍大きく、またHeme・HOと同等の大きさであり、1・HOが最も還元されやすかった。これらは、錯体1のプロピオン酸とHOのArg177がHeme・HOと同様の水素結合を形成したことで、錯体1がヘムと同様にCPRとHOの蛋白質間電子伝達反応を利用可能となり、酸化還元電位に制限されずにCPRからの電子伝達を受けたためと考えられる。
すべて 2005
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