研究概要 |
ヒドロゲナーゼは水素代謝に関わる金属酵素である.本酵素は水素の酸化・還元を触媒する機能を持つ.従って本酵素の工業的利用の可能性を探る研究は新規燃料電池の開発や石油に変わるクリーンエネルギー生成の道を拓くことにつながる.活性部位はNiとFe原子からなる複核金属錯体である.空気中で精製された酵素の活性部位のNi原子はIII価の酸化状態で不活性である.最近,その不活性型には二つの状態が存在することが明らかになった.それらはESRの測定によるNiのg値が(2.01,2.24,2.32)となるNi-A型と(2.01,2.16,2.33)のNi-B型と呼ばれる.Ni-A型は不活性-安定型分子であり,Ni-B型は不活性-活性準備型とも言われる.酵素が触媒作用を示すためにはNi-B型が必要であるが,触媒作用を休止するにはNi-A型にならなければ酵素を安定に取り扱うことはできない.本研究では,両者を完全に造り分ける方法を確立し,ヒドロゲナーゼの機能発現に至る過程を自在に操る方法を開発することを目指した。 通常菌体から精製したままの酵素はNi-A型とNi-B型の混合物である.昨年度までの研究で,この混合物である精製酵素溶液に50mMのNa_2Sを加えた後,それを空気に暴露することにより,純粋なNi-A型のみからなる酵素溶液を調製することに成功した.この過程において空気に暴露する前にNi-A型とNi-B型の中間体を経ていることも見出した。中間体生成時には,酵素中の電子伝達ユニットである3個のFe-Sクラスターのうち,Fe_3S_4のクラスターのみが酸化-還元を繰り返していることがわかった.今年度は,Ni-A型とNi-B型のそれぞれについて結晶化に成功し,またX線結晶構造解析を行った.その結果,Ni-A型ではFeとNiの間のブリッジ配位子が2原子分子であり,一方,Ni-B型は単原子,あるいはその水素化物であることを見出した.今後は中間体の構造を分光学的および結晶構造化学的に解明するとともに中性子結晶解析に適した単結晶の調製に臨む.
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