人類が直面している環境・エネルギー問題を解決するため、太陽光エネルギーを水素エネルギーに変換可能である“水の可視光分解反応"に関する研究が広く行われている。我々は以前に、光増感能を有するRu(II)錯体と水素生成触媒能を有するPt(II)錯体を単分子中に集約させた単一分子光水素発生デバイスを報告した。本課題では、その電子移動空間、及び、触媒反応空間の制御に基づく高効率光水素発生デバイスの創出を目的とし、研究を進めてきた。具体的には、高効率電子移動空間の構築法として、(1) Ru-Pt間を連結する架橋部位の電子構造制御、(2) 過渡吸収分光法を用いた光電子移動機構の解明、(3) DFT計算による光水素生成機構の探索、(4) Ru-Pt型分子デバイスの二量化構造を持つ(Ru-Pt)_2型四核デバイスの構築、を行なった。一方、高活性触媒反応空間の構築法として、(5)白金触媒中心の電子構造制御、(6)ストップトフロー法を用いた水素生成反応機構解明、(7) Pt(II)錯体の電極固定と電気化学的機能評価、(8)白金二核錯体を触媒活性部位に持つRu-Pt_2型分子デバイスの構築、(9)強配位子場を有する白金錯体の触媒活性機能評価及びその分子デバイスの構築、を行なった。研究(1)で合成した種々の単一分子光水素発生デバイスについて、その触媒活性変化について考察を行なった。その結果、Ru-Pt間をアミド結合などのπ共役系スペーサーで連結したデバイスでは触媒活性を示す一方、Ru-Pt間のπ共役系がメチレン鎖で分断されたデバイスでは全く触媒活性を示さないことが明らかとなった。また、アミド結合で繋がれた一連のデバイスを比較した際も、その活性に顕著な変化が現れた。DFT計算(研究(3))の結果、架橋配位子上に存在するLUMO軌道が触媒活性部位である白金近傍に存在することが、高い活性を生み出す鍵構造となることがわかった。更に、研究(4)より、デバイスの三重項励起状態が比較的短寿命であることが水素発生触媒機能の発現に重要であることも明らかとなった。
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