研究概要 |
ペロブスカイト型構造及びその類似構造を持つ金属酸化物は、結晶を構成する金属イオンの組み合わせにより、様々な種類の導電性-プロトン導電性、酸化物イオン導電性、電子導電性、ホール導電性など-が生じる。本研究では、結晶内の金属イオン及び酸化物イオンの配列を精密に制御し、結晶内をプロトンのみが優先的に移動(導電)可能な場(=配位空間)を持つ、高いプロトン導電性を発現する電解質材料、並びに結晶内をイオン及び電子(又はイオン及びホール)が優先的に導電可能な配位空間を持つ、混合導電性電極材料を創製し、燃料電池等エネルギーデバイスへの適用可能性について検討している。本年度は、ランタンスカンデート系ペロブスカイト型化合物(La0.7Sr0.3)ScO3-δ(+yH2O)の導電特性を詳細に検討し、その「電荷担体マップ」を作成した。また、(La1-xSrx)ScO3-δ(+yH20)(x=0.1,0.2,0.3)を対象として、極低温〜室温における中性子回折測定、室温〜高温におけるin-situ X線回折測定、及び低温〜室温におけるSr-K XAFSの予備測定を行った。(La0.8Sr0.2)ScO3-δ(+yH2O)の極低温(3K)における粉末中性子回折データより求めた核密度分布図上の負の核密度分布から、結晶格子中でH原子が存在すると推定される位置を割り出した。Sr-K XAFSの測定では、AサイトにドープされたSr原子をプローブとして、その周りのプロトン導電性の起源と考えられる配位空間の局所構造を検討した。その結果、Sr K-XANESでは、Srのドープ量が増加するにつれて、1s→4p遷移ピークの強度が減少し、Srの価数が減少する傾向が見られた。また、Sr K-EXAFSから得られた動径構造関数に対するカーブフィッティングの結果、Sr-Oの結合距離は、Srのドープ量が増加するにつれて、連続的に増加する傾向が見られた。これは、ScO6八面体の傾き角が、Srのドープ量が増加するにつれて減少することに対応しており、Sr-O結合が延びることによりSrと酸素の軌道のオーバラップが減少するために1s→4p遷移ピークの強度が減少するものと推定される。更に、(La1-xSrx)ScO3-δ(+yH2O)系材料について、簡便な新規焼結法を確立し、センサーなどに適用できる相対密度98%以上の稠密な高速プロトン導電性材料を作製して実用化に向けた検討を開始した。
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