研究概要 |
Na_xCoO_2・yH_2O研究では、結果の集大成を念頭にした。これまで行ってきた研究は、母物質のNa_xCoO_2から超伝導を示すNa_xCoO_2・yH_2Oまで多岐にわたるが、そこでのNMR測定を中心にした研究で、クーパー対がsinglet状態にあることを示したこと、超伝導転移温度T_c-v_Qの相図(v_Q : NMR四重極周波数)を完成したこと、さらには、その相図上でv_Q領域が二つに分かれた超伝導相がじつは同一の対称性を有すること、などの成果を蓄積してきた。ここでは、大型単結晶を用いた中性子磁気非弾性実験のデータ解析により、singlet電子対の存在を、側面から裏付けたことが特筆される。また、超伝導転移温度T_cへの同位元素効果をも調べたが、その効果が小さく、格子振動が超伝導発現に役割を果たしているとの明確な証拠は得られなかった。しかし、種々の事情を考慮すれば、その可能性も高いようである。一方、機能性物質の開拓的研究を行い、さらに加えて、日本で新たに発見された鉄プニクタイドの超伝導研究をも開始し、輸送特性・熱特性など巨視的物理量測定とNMR,中性子散乱研究とを並行して研究した。その成果は、この系の超伝導がスピンの揺らぎによって引き起こされているかどうかを判断するのに必要な種々の情報を与えたことである。特に、スピンの揺らぎによって引き起こされるというS_±の対称性の可能性が、多くの研究者によって主張される中で、それでは簡単に説明できない実験結果を多く指摘し問題を提起してきた。なお、この年度連携研究者とした室町英治氏はNa_x(H_3O)_z(H_2O)_nCoO_2の中性子粉末回折図形のリートベルト解析により、同物質の複雑な結晶構造の精密理解にせいこうした。
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