研究概要 |
基礎科学実験の場においては,高温,強磁場,真空などの特殊環境がしばしば必要とされる.現在,広く利用されている電磁モータは,それら特殊環境において,利用が困難もしくは不可能となる場合が多い.本研究では,特殊環境で利用可能なアクチュエータとして静電モータに着目し,特殊環境下における性能評価・性能向上の研究を進めた. 本年度は特に,交流駆動両電極形と呼ばれるフィルム形静電モータの強磁場中における動作特性評価を中心的課題として実施した.このモータは,数cm角のフィルムから構成され,数Nから数十N程度の推力が発生可能なモータである.モータが磁場から受ける影響,および,モータ動作が周辺磁場に及ぼす影響の2点を評価し,実際に,強磁場環境の一例であるMRI環境に持ち込んで,その性能評価を行った. 解析的評価としてモータの電流分布モデルを構築し,移動子が外部磁場から受ける力,および,モータが発生する磁場を評価した.前者に関して,1T程度の磁場中においても,移動子が磁場から受ける力はモータ推力に比して無視できる大きさであることが確認できた.後者に関して,モータ動作時に発生する磁場は,30cm程度離れた位置においてnT以下であり,MRIなどの周囲で利用しても,計測用磁場に与える影響は軽微であることが確認できた.実験的評価として,静磁場強度1.5TのMRI環境にて動作試験を行った.推力評価の結果,通常時と同様の推力を発生できることを確認した.MRI撮像を行いながら,モータを動作させたところ,計測用コイルから数十cm程度離してモータを動作させれば,MRI画像のSN比低下は無視できるレベルであることが確認できた.
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