本年度は二つの研究を主に行った。一つは高酸素イオン導電体であるセリア系電解質の燃料極側表面にBaCeO_3薄膜を成長させ、それがもたらす二つの効果(セリウム還元抑制及びアノード材レス化)を評価した。もう一つは新しい中温作動(200-300℃)型プロトン導電体を開発し、燃料電池用電解質としての適用を検討した。 セリア系電解質としてCe_<0.8>Sm_<0.2>O_<1.9> (SDC)を使用し、この片面にBaOスラリーをスピンコートし、90℃乾燥後に1400-1700℃焼成した。これを高温作動(600-950℃)型水素-空気燃料電池の電解質に使用し、(1)ニッケル-SDCサーメットアノードを取り付け、電解質の還元状態及び界面のオーミック・分極抵抗等を評価した、(2)アノード材を取り付けずに、(1)と同様な評価を行った。またプロトン導電体としてcubicSnP_2O_7及びIn^<3+>ドープSnP_2O_7に着目し、空気中でのプロトン導電率及び中温作動(150-300℃)型燃料電池発電特性等を評価した。 セリア系表面を各種分光法でキャラクタリゼーションしたところ、どの焼成温度でもBCS膜とSDC基板が一体化していたが、焼成温度の上昇とともにBaの揮発によって外表面が次第にセリアリッチになっていた。このため、低温焼成ほどセリウムの還元が抑制されたが、高温焼成ほどオーミック・分極抵抗が小さくなるといった結果が得られた。このため、燃料電池作動温度により、焼成温度の使い分けが必要であることが判明した。またアノードレス化の検討から、本電解質がニッケル等の電極材を取り付けなくても内部抵抗が低く抑えられ、これまで報告されているアノードレス電解質の中でトップレベルの発電特性を発揮できることが見出された。またこの場合の電解質特性も上と同様な焼成温度依存性が確認された。 CubicSnP_2O_7は乾燥空気中ではホール導電率が主であるが、水蒸気分圧とともにプロトン導電率が高くなることが分かった。またドーパントカチオンとしてはIn_^<3+>が有効であり、10mol%が最適ドープ量であった(プロトン導電率は250℃において1.9×10^<-1>S cm^<1->)。これを電解質に使用した燃料電池は、250℃・無加湿雰囲気であるにも関わらず開回路電圧が約900mV、最大出力密度が264mW cm^2に達するまでに至った。
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