研究概要 |
今年度はバリウムジルコネート系プロトン導電性酸化物簿膜においては基板-薄膜界面に生じる熱応力等の残留応力状態の評価をリチゥム導電性酸化物薄膜については基板上における面内方向, 膜厚依存性をより詳細に評価した。バリウムジルコネート系プロトン導電性酸化物においては当初予想していた熱応力をはるかに超える数GPaという高い残留圧縮応力が常温で薄膜内に存在しているのが確認された。PLD法による作製の際の酸素分圧を変更したところ残留圧縮応力が変化したため, この残留圧縮応力はPLD法による製膜中に薄膜内に導入されたことが明らかとなった。残留圧縮応力が薄膜の面内方向のプロトン導電特性に与える影響について評価したところ, 面内方向の格子定数がセラミックスより小さくなるとプロトン導電における活性化エネルギーが減少し, 逆に大きくなると増加する傾向を示唆する結果となった。これはプロトン導電体内においてプロトンは結晶を構成している酸素近傍に存在するサイトに位置し, そのサイト間をホッピングで移動すると考えられているため, ホッピングする距離の大小がそのまま活性化エネルギーに反映されているのだと考えられる。量的な評価は行えなかったが, このような応力による歪とイオン伝導性の評価を行った例は少なく, 本研究成果は今後の固体イオニクスの研究において有用であると考える。 リチウム導電性酸化物薄膜においてはA面でカットしたサファイア単結晶基板を用いA面に存在しているC軸に対して垂直, 平行方向の導電率を評価した。その結果, 膜厚が100nmを下回ると, C軸に対して平行方向, 垂直方向で導電率, 活性化エネルギー, 前置因子が変化することが確認された。リチウム導電性酸化物薄膜はアモルファス状態であり, 界面近傍数10nmにおける構造の変化はTEM等を用いても評価は困難であるが, 確かに基板の影響によりリチウム導電特性が変化していることが確認された。
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