研究概要 |
本年度は化学ポテンシャル勾配下に置かれた2元系イオン性化合物の組織変化,特にボイドの生成について,その生成位置などを定量的に表す理論式を導き,モデル実験と比較してその妥当性を確認した。 (1)イオン性化合物(金属酸化物)の膜が化学ポテンシャル勾配下に置かれ,イオンが常に流れている非平衡状態で,金属イオンと酸化物イオンの流れの発散が化学量論比でなければならないという条件のもとに,酸化皮膜中における化学ポテンシャル分布を計算する一般式を提出した。 (2)この現象の例として,鉄の高温酸化で生成するマグネタイトを取り上げ,マグネタイト中の鉄イオンおよび酸化物イオンに対する既報の拡散係数を,上記の式に代入し,マグネタイト皮膜中の化学ポテンシャル分布を計算した。 (3)得られた化学ポテンシャル分布をもとに,イオンの流束を皮膜中の位置の関数として求めた。この流束の発散を位置の関数として求め,負の発散の場所ではボイドが生成し,正の発散の場所では新たな酸化物が皮膜内で生成することを提案した。 (4)823において鉄の高温酸化を酸素ポテンシャルの異なる雰囲気で行い,形成するマグネタイト皮膜の組織と計算結果を比較し,皮膜中のボイドの生成挙動を定量的に説明できることを明らかにした。 さらに,酸化皮膜中の組織変化に関するプロトンの影響についての基礎的研究にも着手した。
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