研究概要 |
今年度は主に、1)去年に引き続きHeと同電子を持つイオン系の電子相関についての研究、2)新たに変分崩壊の少ない実用に足る4成分相対論Gauss型基底についての研究、3)ランタニド原子について電子相関を記述するためのモデルポテンシャル用基底関数の発表とその応用を行ったので以下に述べる。 1)Heと等電子を持っイオン系の電子相関について 非相対論的方法でHeと等電子を持つイオン系の電子相関を計算するとHeでは-42 millihartree、Cより大きい原子イオンではおよそ-45 millihartreeと一定となる。ところが相対論的Hylleraas型配置間相互作用(CI)、さらにMC Dirac-Fock(MCDF)計算でも核荷電が大きくなると電子相関エネルギーが急速に減少することが示された。MCDFによる電子相関エネルギーは_<97>BkでHylleraas型CIのそれを上回る。そこで今年は完全系に近いと思われる80s、80p_-、80p_+、80d_-、80d_+、80f_-、80f_+、pGTFを用いたCI計算によりno-pair近似の範囲内で電子相関エネルギーの極限値を求めた。その値は相対論Hylleraas型CI、MCDFのそれを上回った(文献1)。 2)変分崩壊の少ない実用に足る4成分相対論Gauss型基底について 4成分相対論計算では展開法を使用すると異常に低い全エネルギーが得られることがある。これは変分崩壊と呼ばれる。近年大きな基底関数をしてもnumerical DF値を下回る全エネルギーが得られることが分かってきた。これをprolapseと呼ぶ。昨年、展開個数が増えるとともに全系のエネルギーがnumerical Dirac-Fock値を再現する基底関数を_<83>Biまで発表したがあまりに展開項数が多い。今年は実用に足る展開項数であり、かつ精度も高い基底関数を原子軌道を同じ指数因子をもったGauss型軌道で展開するというsingle-family-exponent(SFX)を開発し発表した(文献2)。 3)モデルポテンシャル用基底とその応用。 昨年度,開発・作成したランタニド原子について電子相関を記述するための基底関数のセットに関する論文を今年度発表した(文献5)。4d電子を含めて,4d 4f 5s 5p 5d 6s殻に入っているすべての電子をあらわに扱う高精度の新しい相対論的モデル内殻ポテンシャル(MCP)を開発することに挑戦している。この基底を用いた希土類化合物LnX_3(X:ハロゲン)の分子構造、励起状態の論文を現在執筆中。さらに築部(大阪市大)らの実験で得られているランタニドカチオンと種々のトライポッド分子からなる錯体の安定性に関して,構造最適化をともなう理論計算を行ないその要因を調べた。計算結果は実験で得られた安定性をよく説明している。現在執筆中
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